ブックエンド




 韓国で物を買うとき、細かいところで日本との違いが現れる。食器などの違いは当然にしても、たとえば浴室で使う湯桶のようなものが韓国にもあるのだが、それはひょうたんを縦切りにした形を模した物だ。日本も韓国も現代ではほとんど、同じプラスティック製のものを使っているのに、その形はかつて木やひょうたんで作っていた頃のものをそのまま引き継いでいるのだ。
 だけどこういう前置きとは何の関係も無く、僕が今一番疑問に思っているのは、ブックエンドの形である。日本でブックエンドといえばどういうのを普通思い浮かべるだろうか。僕はまず、これを思い浮かべる。

これ→ 背もたれの両側に底面が張り出たタイプ=Aタイプ

 僕が韓国へ来て、ブックエンドを探そうと思ったとき、まず念頭においたのもこのタイプだ。仮に(A)タイプとする。

ところが、このタイプが、なぜかどこの文房具店にも置いていないのである。じゃあどういうタイプがあるのかというと、下のこれらである。

本の下敷きになる部分にだけ底面があるL字型=Bタイプ右と同じL字型タイプのバリエーション


 上の2つは、構造的にいって同じだといえると思う。一応これらを(B)タイプとしておこう。このほかに背もたれ部分に装飾的な穴や凹凸の施されたもの、底面に滑り止めのゴムのパッチがついたものなどが在るが、基本的には同じだ。つまり、Aタイプのように鉄板を切り抜き、本に敷かれるベロ状に突き出た部分と、本が反対側に倒れないようにする底面の部分の、背もたれ(?)を挟んだ両側に底面が張り出た構造ではなく、単純に鉄の板をL字状に折ったものがこちらの文房具店では主流なのである。
 この、品揃えの偏り(と僕の目には映る)が理解できないのだ。後ろにひっくり返ることがない点で、小さな利点かもしれないが明らかに(A)タイプの方が機能的だと僕は思う。また、この加工を鉄板に施すのに技術的障害などあるわけも無い。現に昔、中学の技術家庭科の授業でこのタイプのブックエンドを作ったことがある。初歩の初歩だ。

 そう思いつつ、ある時市場に買い物に出かけたとき、そこの近くにあった事務用機器の専門店に入ってみた。ここならばと思って店内を探すと、果たして(A)タイプが売っていたのである。しかし、買わなかった。迷った挙句、これはどうも・・・とおもって買わなかった。
 でかすぎるのである。通常の、日本の単行本程度の高さの2倍は優にある。これは大型のファイルや何やらを整理するためのものだろう。でも、そのサイズしかないのだ。不思議なことに、その巨大な(A)タイプのブックエンドを製造している会社は、それよりも小さいサイズのブックエンドも製造しているのだが、小さめのサイズはみな(B)タイプで、(A)タイプの方式は巨大サイズにしか採用していないのである。
 こうなるともはや、事務用でなく一般の本棚や机の上での普段使いにおいて、(A)タイプはふさわしくない、似つかわしくないと(少なくとも製造者側は)考えている、としか僕には思えない。確かに日本でもBタイプのものも売っているし、そちらの方が好みだという人も少なくないだろう。でも、そのタイプしかないというのは、実際問題としてちょこちょこ不便だ。第一これでは、背もたれの高さの倍以上ある本は、力学的に言って端っこ(背もたれのすぐ傍)に置けないじゃないか。大型の本は何かと邪魔だから、端の方に置いておきたいのに。

 やっぱり、これまで何度か聞いたように「韓国人は中身より見栄えばかり気にする」から、ベロの突き出たようなのは「みばが悪」くて、売れないというのだろうか?見栄えを気にするということで言うと、「プラスチック製のまな板はキムチの色が染み付いてしまうので木のほうがいい」というのと、「表面がステンレスの鍋は焦げ付くと跡が取れなくて見栄えが悪いのでアルミニウム製のほうが良い」ということを、実際に買い物の場でアドバイスされたことがあるが・・・
 このようなデザイン的感性の違い以外に原因を探ろうかと思うこともあるのだが(ブックエンドの使用法の違い、とか)なにせ生活に必要な品なので、仕方なくL字型のものを買い求め、それを使っているうちに別に何も思わなくなってしまう。だけど、ときどきうっかりなにかの拍子にブックエンドが外側にひっくり返ると、そのたびにやはり思うのである。「どうして、ベロ型のものは韓国に無いのだろう」と。
 それで、日本に帰ったときにはそのタイプのを3,4セット買って帰ろうと思っていたのだが・・・とりあえず今年の夏は忘れてしまった。



目次へ
ホームへ